制作過程 その3
PC上で完成した画像です。これをプリントしますが、その前に用紙を意識したプリント用の画像データを作ります。

まずプリントする用紙を意識してコントラストや色合い等、色調補正します。これはいつでも修正できるように調整レイヤーを作っています。

特に人物部分が違和感がないように、時には重ね合わせのところまで戻ってやり直します。そして用紙サイズのデータを作ります。この時にアンシャープマスク、もしくはスマートシャープをかけます。やり直すことがあるので、その数値は控えておきます。ところで写真を重ね合わせの時点にいつでも戻れるように、その都度、新規保存していくので、ファイル数が多くなり、ディスク内における使用データ領域も大きくなってしまうのが難点です。

そして用紙の長辺、短辺のサイズを意識して、画像を切り取ります。その時に余白を意識して、実サイズより3センチ小さな画像を作ります。

大体このような感じです。左がオリジナルで、右が用紙の縦横比で切り取った画像です。

そして用紙を意識して切り取った画像の周りに1.5センチずつの白枠を作ります。マット紙に合わせたときに枠ができるようにしています。これは好みの問題で、窓からのぞいたような雰囲気にしたいので白枠でマット紙との境界線を作っています。上下1,5センチずつなので、画像サイズが3センチ大きくなります。実際に黒線はありませんが、ここでは分かりやすくするために線を入れています。そしてその白枠のところがサインを入れるスペースにもなっています。これでプリント用データの完成です。因みにこの作品はプリントしていないので、これ以降の制作過程に出てきません。

ところで実際にプリントする前に幾つかの作業があります。モニタの色とプリンターの色を同じにするために調整します。単純に言ってみればモニタはRGB(レッド、グリーン、ブルー)で色を作っているのに対し、プリンターのインクはCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)なので、違っています。何も意識せずプリントすると同じようにならないのが当然です。それを同じように合わす作業がカラーマネージメントです。
まずPCのモニタの色が、使用している環境で正しく出るように調整します。X-Rite社のColorMunki Photoを使用します。

そしてソフトの手順に従って、使用する用紙ごとにプロファイルを作っていきます。これによって大体同じような色合いでプリントできるようになります。またプロファイルは用紙メーカーからプリンターの機種に合わせてダウンロードもできるので、自分で作ったもの、ダウンロードしたものの2種類を名前を変えて保存しておきます。

それらのプロファイルを使用し、テストプリントします。印象派写真シリーズは大体3種類ほど試します。以前は用紙選択もあって6枚から9枚テストしていました。その時の写真です。


そして実際に用紙を選んでプリントします。印象派写真シリーズではドイツのハーネミューレ社、ウイリアム・ターナーというマット紙の分厚いタイプ310g/m2を使用しています。この用紙は2種類の分厚さがありますが、深い色のりを意識して、分厚い用紙にしています。

ハーネミューレ社の用紙はドイツ国内でも量販店やカメラ写真専門店においてあることがなく、ネットで購入しています。

マット紙です。

25枚入りです。

ここより以降の作業でプリントを触る場合、指紋や指の油が付かないように全て手袋をして行います。

実際にプリントする前に用紙に着いた紙粉をブラシで払い落とします。これをしないと紙粉が用紙に残っていて、プリントした後にそこだけ色が載っていなかったり、またプリンターの方に紙粉がついて、プリント時にインクが付かなかったりと影響が出るようです。実際に使っているブラシです。


実際の用紙はこれくらいボコボコしています。光沢も全くないので、それが絵画的な印象になります。

プロファイルを適用してプリントします。大きなサイズでプリントすると画面で見ていた時と印象が変わり、また気になる点もあったりして、多い時で3度ほどプリントします。プリントは全て最高画質で行います。またあえて違うプロファイルを使うことがあります。PCで出来た画像とは違う色合いになって、印象も変わります。

使用しているプリンターはEPSON SureColor P600(日本名 SC-PX5VII)でインクが8色あります。

プリントしたものは、風があまり通らない床に新聞紙を広げて、その上で乾かしていきます。

写真が乾いたのちに保護スプレーを吹きかけます。ほこりや塵、湿気対策です。どの程度効果があるのか分かりませんが、使用説明に書いているように時間をおいて5分おきに2度、もしくは3度スプレーします。結果的に今回の「Nostalgic harmony」では3本のスプレーを使用しました。シンナー臭がきついので窓を全開にして作業します。

保護スプレーが乾いたのちに裏打ちです。裏打ちシートを貼る作業ですが、これをすることによって写真がピンと張った状態になります。用紙が分厚く、最高画質でゆっくりとプリントして、しみ込んでいるインク量が多いこと、特に日本では湿気が多いことを意識すると、この裏打ちは欠かせないものです。


そしてマット紙を用意します。これは額とは別に注文しています。

そして裏打ちしたプリントの額装です。額装するときに台紙に固定するために定規で場所を図ってフォトコーナーを貼ります。マット紙やプリントにはテープや糊が直接つかないよう意識します。


そのフォトコーナーに写真を挟んでマット紙とともに額に入れます。額装はこれで完了です。

そして作品を一覧にした目録を作り、箱に貼っていきます。それによってギャラリー搬入時に作品を掛ける場所に箱を置いていくことができます。また後日、作品を探すときに箱に作品名が貼ってあれば、どこに目当ての作品があるか一目でわかります。

そしてこれら以外にギャラリーの構造を知った上での作品の並べ順、見てほしい人を意識した作品をかける高さ、作品と作品の間のスペース、照明の位置を考慮していきます。並べる順は小さなプリントを作ってシミュレーションします。そしてそれをiPadやiPhoneで撮影して、それを見ながら搬入当日に並べます。
それから会場に貼るプロフィール、作品タイトルや販売価格を記載したキャプション、ポストカードなどの価格表を作っていきます。今回のシリーズのギャラリー販売価格は、以前にギャラリー華の方たちによって決めていただいた価格をもとにしました。今回は同サイズならば基本価格は同じで、額やフレームの違い、マットの有無、マットの種類、フォトコーナー設置の有無などで価格を決定しました。単純に書けば今回は額の価格の違いで作品の販売価格が違っているということです。
大体このような手順で作品制作を行っています。